博多の旨い店は、派手に語らない。「燦々」が教えてくれる、大人の酒場の正解。
居酒屋以上、割烹未満。九州の旬と、料理人の感性が交差する場所。博多駅東の「酒と博多飯 燦々」を、編集長の視点で訪ねる。

居酒屋以上、割烹未満。九州の旬と、料理人の感性が交差する場所。博多駅東の「酒と博多飯 燦々」を、編集長の視点で訪ねる。
博多駅東口から徒歩圏。繁華街の喧騒から一本入った場所に、扉を引く店がある。「酒と博多飯 燦々」。
居酒屋でもない。割烹でもない。その中間に位置する、福岡では珍しい業態の店だ。看板に「博多飯」とあるが、出てくるのは博多の料理というより、九州の旬を料理人の感性で組み立てた一皿。だからこそ、説明が難しい。だが、一度座れば分かる。

木をふんだんに使った店内は、モダンでありながら温かみがある。1階のカウンターからは、厨房の動きが見える。これを「ライブキッチン」と呼ぶのは、料理が作られる過程そのものが演出だからだ。
包丁の音、火の音、皿が並べられる小さな音。それらが重なって、食事の前菜のような時間をつくる。客はまだ何も食べていないのに、すでに満たされている。
2階にはテーブル席。団体でも対応できるが、設えは上質で、落ち着いて語らうための空間として作られている。
「地産地消」という言葉は、使い古されて響きが鈍くなった。だが燦々では、その言葉がまだ生きている。
九州の豊かな風土が育んだ旬の食材を、その時一番美味しい仕立てで提供する。メニューは固定されない。季節が変われば、料理も変わる。料理人の感性が、その日の素材と対話して決める一皿。
だから、同じ日に来ても、隣の客と違う料理が出ることもある。それが燦々のやり方だ。

福岡県の酒蔵に絞った純米日本酒が、店の自慢だ。
お得グラス、お試しグラス、一合、二合。サイズも豊富で、好みで選べる。地元作家の錫の酒器で提供される。錫の杯に注がれた酒は、口当たりがまろやかになる、と言われる。科学的な裏付けはさておき、手に取った時の重みと冷たさが、飲む前から時間を整えてくれる。
酒蔵の数は、福岡県内だけでも二十を超える。その中から選ぶという行為は、単なる品揃えではなく、編集だ。燦々は、福岡の地酒を編集している。

取材を終えて店を出ると、博多の夜はまだ続いていた。だが、燦々で過ごした時間は、どこか別の場所にあったような感覚を残した。
居酒屋以上、割烹未満。この表現は、燦々を説明する最も正確な言葉だが、同時に最も不十分な言葉でもある。なぜなら、その中間に位置するということは、どちらの約束にも縛られない、という意味だからだ。
良い料理は、良い手から生まれる。燦々の厨房には、素材と向き合う料理人と、空間を整えるホールスタッフがいる。共通しているのは、料理と空間に対する敬意と、成長しようとする意志だ。
派手に語らない店。だからこそ、味わう側の感性が試される。大人の酒場の正解とは、そういう場所のことを言うのだろう。

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